EXPERIENCE体験談
離脱B
2024.03.27
少し暗い部屋の中、老婦がキッチンでお湯を沸かし、好きなハーブと紅茶を用意して一人だけのティータイムを楽しもうとしている。その生活はきちんとしていて清潔感のある暮らしだ。
老婦はゆったりとした動作で、何もなくても自然と笑みがこぼれるので、昔を懐かしんでいるようにも感じられた。
そんな老婦に、あなたの人生はどんなものでしたか?と質問してみた。老婦はすぐに笑顔で、どうってことない人生だったわ、まあでも楽しかったし、そう、一人でも楽しめる人生だったのよ、と答えた。老婦は楽しそうに笑い声をあげる。私もいい気分になって、その老婦の話を聞き始めた。私の意識は、目の前のそのさわやかな老婦そのものに入っていった。
私は今、白い壁と青い屋根のかわいいコロニアル式の家を見ています。玄関はアーチ形の優しい雰囲気ただよう門が出迎えてくれる。まるで帰る者を待っていたかのように感じさせる。
私は小さな女の子です。この家にはダンディーな父と優しい母、おじいちゃんおばあちゃん、そして私が家族として住んでいます。いつも楽しくて新しい発見があって、怖いものなど何も感じられない、満ち足りた日々を過ごしています。そうして私は、何の問題もなく暮らしていて、成長します。
15歳になったときのことです。なぜそうなったのか、誰かが誤って薪をくべた時に火が何か布にでも燃え移ったのか、もしくは捨てたほうの灰にまだ熱がこもっていたのかもしれない。私の目には、住み慣れた家が真っ赤な炎で燃え盛る衝撃的な光景が映しだされた。ショックな感情は私から思考を奪い、その光景が頭から離れない状態で年月が過ぎていった。
暗い路地裏に立ち尽くして絶望感を味わっている。この場所は屋外だし降る雨は冷たい。髪は顔にへばりつき、そういえば靴も持っていない、私には何も無く、家族をすべて失った状態だった。
これが15歳の年頃の女の子だなんて、誰が見て信じるのか。わたしはしばらく記憶がなかった。ずっと引きずっていたからなのかもしれない。いつしか、私は17歳まで月日が流れていて、おだやかな暮らしをしている自分に気づくことになる。
私はこぎれいな部屋にいて、自分専用のベッドに腰かけている。パタッと倒れこみ思考を止める。怖かった思いも感情を揺さぶる激しい悲しみも、今は癒えている自分に、気づいた。きっと布団がフカフカだったからだろう。
この家には他に、私を引き取ってくれた叔父がいます。叔父は優しく、すこし太っている。男だけど、生活はちゃんとして、悲しんでいた私を鼓舞し続けてくれていた。
私は悲しい過去を完全に思い出にできていた。
そして今、叔父が身元を引き受けてくれた家とは違う家、マンションに移り住み、丸い小さなテーブルに、ハーブと紅茶を用意していた。それも2つ。目の前には、窓のヘリに腰かけた優しいまなざしの男性がいるから、彼の分もあるからだ。
年齢が進んでいて子供はいなかったが、楽しくて満ち足りた生活ができていたことが、この男性の表情を見ればわかる。私もこの幸せに満足していた。穏やかな時代を長らく進み、やがてパートナーが先に旅立ち、私は一人で楽しく暮らす老婦になっていた。
若くして自分以外の家族を全て失う壮絶な時代を経験し、あたたかく見守ってくれた叔父に自分の意識を取り戻させてもらい、人生の大半を穏やかな性格のパートナーと共に過ごした。大変なことがあって、その分幸せも強く感じられた私の人生。私の意識も、死ぬ時も、本来は一人だけど、私は人との触れ合いの中で、一人でも一人じゃないことが理解できていた。私の心の中は一人じゃないの。私のテーマは一人でも楽しめるということ!なぜなら心が温かいから一人ではないの。あなたは今、雲の上で辛そうに窮屈そうにしているけれど、私が笑い飛ばしてあげますよ。あなたは私自身でもあるのだから、笑っていればきっと大丈夫なんだから、またここに遊びにいらっしゃいね。また、お話ししましょう。