EXPERIENCE体験談

     

砂の古都・父の思い

前世療法

2022.07.05

エルサレムは紀元前1000年頃にヘブライ王国が成立すると、2代目のダビデ王によって都と定められた。第2代目の王ダヴィデは、ペリシテ人を破ってパレスチナ全土を掌握し、エルサレムを首都とする統一王国の基礎を固めた。その息子ソロモンの時代が最盛期で、フェニキアのティルスの王と手を結んで、海外との貿易を積極的におこなった。第3代目のソロモン王によって王国は絶頂期を迎え、エルサレム神殿(第一神殿)が建設された。王の国庫はオリエントの珍しい獣や商品で溢れんばかりになった。宮廷はその洗練された組織と多数の官吏とで、目もくらむばかりだった。ソロモン王の死後の紀元前930年ごろに王国は南北に分裂、エルサレムはユダ王国の都となった。

私が生きていたのはそういう時代でした。

海に面した砂の村落。木と石に囲まれ、海風が気持ちよくそよぐ。

私の仕事は”見張り番”です。

格好は、白くて長いローブのようなものを一枚着ているだけです。

数人の仲間と一緒に、毎日のように海を眺めている。

海の方から、”何か”がやってくるかもしれないから、ただ一日中、夜中もずっと海を見続けるのです。

でも気持ちは楽なままでいい…私たちはそれほど緊張した様子ではありません。

ただ、のんびりと海岸で見張りと称して一日を過ごすだけでいいのです。

砂質が多い、レンガに似た石が積み重なった壁に囲われた小さな家が、自分が家族と住む家です。

この家は、5人が住むには小さく、城下の家々と比べるとかなり質素なものでした。

家計を支えるのは、長男の私だけ。

父はずいぶん前に病気を患い働くことができず、ずっと家の中にいます。

テーブルの上に出された母が作ったパンを食べます。私が座る席の隣には、7~8歳の子供と、4~5歳の子供がいます。二人とも男の子で、特に小さい年齢の子は、目がクリクリとしてかわいらしい顔つきが印象的でした。上の年齢の子は、健康そうにまるっとしていてこれもかわいく思えます。

この二人は私の弟たちです。子ではありません。

私は、一家を支える25歳の立派な青年だったので、この子たちとは歳の差ができたのです。

私が、父の代わりに家計を支え、仕事をします。父は、病気のせいか無口で、何を考えているのかわからない、とっつきにくい性格です。私は、父には元気になってほしいと思いますが、父の心が日々の生活の中で安らぎを感じることはなく、だれにも何も開きません。

母には、感謝はしていますが、何かをしてあげないといけないような気持ちはなく、というより、母と話すことはあまりありません。父も母も、自分に、関りや興味といった、家族なりのコミュニケーションは少ないものでした。

なのに、父には元気になってもらいたいという気持ちだけがあったのです。

17歳のころでした。

歩いていると、突然、自分の足を置く寸でのところで地面が崩壊し大きな穴が開きました。危なく落ちるところだったので尻もちをついたまま恐怖で動けなかった。私の驚きは尋常じゃなかった・・・それ以降、慎重な性格になってしまいました。家から一歩外に出れば、また危険な目に合うかもしれない…歩く時は細心の注意を払うようになりました。歩く時だけではありません。今まで普通にしていても、自然現象ではなくても、ある日突然、人から足元をすくわれるような騙し討ちに合うかもわからない。

慎重に行動しなければ。

その先の人生は感情を表に出さない、父のような性格になったのです。

父も同じ体験をしたのだろうか?

わからないが、私が心を閉ざすきっかけになったのは間違いなかった。

そうです。父と母が私に対して興味がなかったのではなく、私の方が心を閉ざしてしまっていたのです。あの日から。

あの日から、私は海を見続け、やがて父は死に、兄弟は独立して母を養い、私とは別離しました。

今、私は一人で生きています。殺風景で広く感じる石レンガの家で。

時がたち、私は石のベッドの上に寝かされています。

私は衰弱しました。

今いる空間には、他にも石のベッドがあり、数人が寝ています。

一緒に暮らしていた時の父の気持ちがよみがえります。

「才能があるお前には、もっとずっといい仕事をさせてあげたかった。そうすれば他の若者たちのように、エルサレムの都に入り、ソロモン王の下で働けるくらい立派な青年になっていたことだろう」

ですが私は、そんなことよりも父に元気になってもらいたかったのです。私の気持ちを、生きているうちに伝えたかった。父もまた、私に気持ちを伝えたかったのです。

言葉は発してやっと伝えることができる。察したり決めつけたりすることはできないのだな。次会ったら酒でも酌み交わしながら、何があったのかどういう気持ちだったのか、腹を割って話そう、父さん。