EXPERIENCE体験談
忘れないで
2023.07.04
私は小学2年の時に父を亡くしました。当時のことはあまり覚えていませんし、父がいない家庭で育ったというその後の人生の方が長いので、特に悲観してはいませんでした。
自分の子供たちには悲しい思いはさせたくないと、もちろん思っています。ただ、それには、条件があるようにいつも感じていて、誰も、悲しまない幸せな家庭にするなら、子供たちには、無理に結婚しなくてもいいとさえ思ってしまいます。
子供たちへの口癖は、「独身でもいい」でした。
そんな私ですが、子供たちが成人してから、何かやらなければいけないような焦燥感に駆られ、やればできることを無理してでも成し遂げようと、あえて苦しい選択ー無茶な糖質制限をしていました。それも1年にもわたってです。
体重が減らない焦燥感から、セラピーを受けたのですが、私のセラピーでは不思議な光景が待っていました。
セラピーの中で私は、気持ちのいい野原で、大きな川を眺めています。それは無理すれば渡れそうなのですが、何をどうして渡ればいいのからないのに、どうしても渡りたい衝動にかられます。渡り切ったら何かが待っている気がしました。
ふと、遠くを見ると、一軒家が見えます。私は”小さな子供の足”でそこまで行ってみることにしました。
一軒家は、現代の、ごく普通の2階建てのおうちです。私は、中に入っていいの?とセラピストに聞いて、入ってみることにしました。
中は、リビングに家族が集まって普段通り過ごしています…主人、息子、祖父、祖母、大人のわたし。みんな休みの日という感じでほのぼのと過ごしています。私は体が小さい女の子になっていたので、みんなに、今何してるの?って、インタビューをしました。それなのに、誰も返事をしてくれません。わたしの顔を見ていないです。ここにいるよー!と大きな声を出しても気づかないんです。
なんだか寂しくなってきました。私のことも、仲間に入れてほしい。「大人の私」は「私」を見てくれません。私を忘れないで・・・そう思った瞬間、周りの景色がグルっと変わりました。
すこし線香のにおい…父の葬式の場面です。親戚が次々と現れてあいさつしてくる。近所の人も。
父が亡くなったんですから、私は小学2年生だけど、とてもとても悲しい気持ちでいっぱいです。私の小さい足は、父の遺影に向かって立ち尽くしているのでした。
父が自宅にいられたのは私が3歳ぐらいまででした。それ以降はずっと病院暮らし・・・月に一回だけお見舞いに会いに行くことができたのですが、いつもベッドで眠っていてお父さんに抱っこしてほしいのにしてもらえなく、寂しく歯がゆい気持ちでした。
私はますます悲しい気持ちになって、なんで、どうして、と泣いて訴えることしかできません。
起きて私を抱きしめてほしい、よくやったね、ガマンして偉いねと褒めてほしい。
やればできるとほめてほしいのは、父にそうして欲しかったのに、そうしてもらえなかった。褒めてほしい人に褒めてもらえなかった。
「忘れていませんか?」とつぜん、記憶の中にセラピストの声が聞こえてきました。セラピストは、本当に、褒められた記憶ないですか?とまた聞きました。わたしは、短い人生だった父を持った子、ではなく、父に愛された子、と認識が変われば、今の苦しい思いが少しは軽くなるのかもしれないと、セラピストの言う通りに、記憶を呼び起こそうとしました。
出てきた記憶は、まだ健康な頃の父。私は3歳。
父は若く、いい笑顔で私を見ています。いっしょに白い甘いおせんべいみたいなのを食べています。フワフワしてておいしいし、父も一緒に食べていてとても幸せな時間をすごしています。
父は、私の頭を撫でてくれます。「えらいねえ」「いいねえ」「おいしいねえ」。父も私も満面の笑みで、私はうれしさがほっぺから溢れてくるようです。
「かわいいくてしょうがない」、「かわいくてかわいくて、この子が大切」、「悲しい思いをさせたくない」
いつの間にか、父の感情が私の中に流れてきていました。
父の、愛しいわが子を思う気持ちが私に感じられ、わたしも胸がいっぱいになります。こんなに愛してくれていたんだと、わかりました。
わたしは、かわいそうな子なんかじゃありませんでした。こんなにも父が愛してくれていたのですから。
ふたたび病院のベッドにいる父を見て、私は、父の手を握りしめ、大好き、と伝えました。すると、いつもは寝ているばかりの病床の父が、起き上がって、私をギュッと抱きしめてくれたので、私は思わず涙が溢れました。とても温かい気持ちです。
セラピーをやる前まで忘れられていた、子供時代の大切な記憶が、この先わたしの人生に素敵な影響をもたらしてくれるのかもしれないと、少し期待しています。
それに、今現在の息子たちが、新しくパートナーと結婚しても、私の父のように病気で亡くなったりなんかしない、と言ってもらえて少し安心しましたが、でも、女同士だから、結局、嫁はいらないと言うかもしれませんけど。